旅も宿につき、ようやく露天風呂で一息。
まだ日も暮れていなかったので、青い空を眺めながら湯につかる。最高のひと時。色んなことを忘れて湯に漂う。温泉の香りに混じって、傍らに散っている花びらの匂いがする。
風呂の真ん中にある岩に背中をつけて、足を大の字にする。
空を見上げる。
だいぶ温まってきたので少し出て、見える眼下の景色に向けて仁王立ち。気持ちがいい。
湯上りにビールを飲み、食事へ。
なんでもない食事ではあったが、疲れた身体には満足。
部屋に戻り、俺と上野君(たっちゃん)は用意しておいた芋焼酎・黒霧島で猿谷はお茶で乾杯。まだ六時。心行くまで飲める。
それぞれの今の話、家族の話、将来の話。
いろんな話をした。こうやって三人が旅をして語ること、自分たちの子供がそうやって変わらない友情で集ってくれたらどんなに嬉しいだろうとか。話が話を呼んで時間が過ぎていく。
酒もだいぶ入って話もかなり深くまで入っていく。
言葉もかなり荒々しくなってきた。
そんな中、たっちゃんにこんな言葉をかけられた。
「お前は今、頑張っているからいいが、本当は言いたいことがある」と。俺は気になって、聞く。せがむ。
たっちゃんが口を開く。
「最近のお前は、色々なものを吸収しようとして色んな言葉、知識を覚えようとしている。でもお前の話していることは他人からや本からの借り物で、お前の言葉に聞こえない。もっと本音で語れ。じゃないとお前の話は聞き流すぞ。」
ショックだった。
自分では親友の相談事や他愛も無い世間話をしているつもりが、自然とそういう部分を小さいときから一緒にいる仲間に向けていたのか‥。そういえば色々な本で覚えた知識や、色々な人から聞いた話を自分としては良かれと思い、アドバイスとして話していたかもしれない。理性で判断するように。
そんな言葉を浴びせられても平静を取り繕う自分に腹が立った。
たっちゃんは続ける。
「知識は吸収するものなんだ、流されるものじゃない。お前は特に東京にいて流されやすいのかもしれない、お前はお前なんだから流されるなよ、吸収してお前が生かせ。」
「色んなものを知ったふりをするな、お前が感じる事を大切にしろ。」
いつも自分が感じていたことだった、役者としての仕事だけじゃない、最近の俺は知識を真に受け、焦り思い悩みすぎて、虚栄心が先行してそんなふうになっていたんじゃないかと。
ただただ、本物になりたいという願いから。
ショックとともに、そんなつもりじゃないって反発心やら、特に驚きが強かった。
まさかそんな事を彼から指摘されるなんて、恥ずかしい話、たっちゃんを見くびっていたのかもしれない。
そう俺も話して一言、「ムカつくなあ」とニヤリとしていう。
嬉しくもあったからだ。
そこに畳み掛けられる。
「お前がムカついたのは俺にじゃない、お前の心が思い通りにならないからムカついたんだ」と。
もう俺から言葉は返せなかった‥。
「お前がどんなにすごくなろうが、かっこよくなろうが、俺らのような一億人の庶民の目をなめんなよ。それだけは肝に銘じろ。」
もう気付いていた、この叱咤は俺の性格、俺の歴史を知っているこいつだから送れる最高のやさしさなんだと。
「昔のお前を見てきた俺らから見て、舞台に立つお前は別人だった、お前は確実に成長している。嬉しかった。でもそれはそれ。だからこの場だけは本音で語ろう。」そう最後に彼は酒をあおりながら俺にかける。
俺は自然と流れる涙を抑えられなかった。
「ありがとう」という言葉も言葉にならない。
俺は間違っていたのかもしれない、今も分からない。
でもそれでいいのかも‥。
心を洗われた気分。
酒も風呂も語りも最上の夜だった。素顔のままで。
明日からは虚勢も張らなきゃいけないかも知れない。
けどこの日の「黒霧島」の味は忘れない。
でも俺は俺であることを教えてくれる二人。

本当は照れくさいけど
応援してくれて、ありがとう。